「話して終わり」ではなく、“ファシリテート”をつくる対話【中編】

前回のあらすじ

退職代行の利用を決意していた若手社員は、最後に社外相談窓口へ電話をかけました。

「誰かに伝えたい」という思いを抱えたその行動が、退職の判断に待ったをかけた、対話の糸口となっていきます──



 

「退職代行に電話する前に、ふと社内ネットで見た“外部相談窓口”のことを思い出して……。正直、話しても意味ないって思いながらも、なんとなくかけたんです」

それは、もはや職場への希望というより、せめて誰かに話したかったという最後の防衛本能のようなものでした。

対応したコンサルタントは、彼の言葉一つひとつを否定せず、ただ真剣に聞きました。

「辞めたい」ではなく「潰れる前に逃げたい」という感情に近いことも、話すうちに見えてきました。

話の終盤、コンサルタントは、少し間をおいてこう問いかけました。

「本当にこのまま黙って辞めてしまっても、大丈夫ですか?」

電話の向こうで、彼はしばらく無言でした。

「あなたの退職を止める立場ではないのですが、言いたいことがあるのなら、ちゃんと会社に物申してからでもいいのではないでしょうか。

 もしも、“自分の想いを会社に伝えてから去ってもいい”と思えるなら、会社にお繋ぎするお手伝いはできます。

 人事の相談窓口担当者に、私たちが橋渡しをします。」

「……会社が、ちゃんと聞いてくれるとは思えませんけど。」

ようやく出た言葉に、コンサルタントは続けました。

「言わなければあなたのその想いは誰も知らないままになってしまうかもしれません。

 言ってみて、聞いてくれなければその時に辞めても遅くはないと思いますよ。」

彼は深く息をつき、しばらく沈黙したあと、「それなら、話だけでもしてみようかな」と口にしました。

もちろん、すぐに会社を信じたわけではありません。

むしろ、「どうせ、口先だけ謝られて終わりだろう」と半ば疑いの気持ちすら抱えていたといいます。

それでも、見ず知らずの第三者がここまで真剣に動いてくれることに、ほんの少し「信じてもいいかもしれない」という思いが芽生えたのです。

 

その後、コンサルタントは速やかに相談窓口担当者へ連絡。

相談者から了承を得て相談者の切羽詰まった状況と、相談者の要望を伝えました。

「話を聞いて欲しい」という相談者の意志に対し、相談窓口担当者も真摯に応えました。

「まずは本人の話を、正面から受け止めたい」──その言葉の通り、面談に向けた準備が進められていきます。

数日後、面談の場が設けられました。

当日は、会社側担当者より業務負担の状況やプロジェクト体制の無理、休日業務の常態化について丁寧にヒアリングされ、

今後の対応として、まずは上司への事実確認、次いで担当業務の整理、定時以降の対応ルール明文化などが提案されました。

すべてが一度で完璧に解決したわけではありません。

けれど、彼の中には「初めて、自分の話を“会社がちゃんと聞いた”と感じられた」という実感が生まれました。

「本当は、誰かに分かってほしかったんです。

怒りとか復讐っていうより、『誰にも気づかれないまま消えるのだけは嫌だ』って気持ちだったのかもしれないです」

その日の帰り道、彼はふとスマホを開き、退職代行業者の番号を削除したそうです。

 


 

声を届けたことで、相談者にも、会社にも小さな変化が生まれ始めました。

“ただ辞める以外の選択が、どう職場に影響をもたらすのか──次回はその後の展開と、企業が本当に変わるためのヒントをお届けします。


 

相談窓口は苦情処理の場じゃない

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