前回のあらすじ
退職代行を考えていた男性社員が、社外相談窓口を通じてコンサルタントとの会話で「最後にもう一度話してみよう」と決意。
企業側もその声を真摯に受け止め、面談の場を設けました。
そこで行われた対話は、ただの“苦情処理”ではなく、会社と社員が未来に向けて歩み直すための第一歩となっていきます。
- 退職代行の前に届いた声──追い詰められていくことの深刻さ【前編】
- 「話して終わり」ではなく、“ファシリテート”をつくる対話【中編】
- 声が届いた先に変化が生まれる──「信頼をつくる対話」のあとで【後編】
面談の席で、男性社員は自分がどれだけ追い詰められていたかを率直に語りました。
業務の負荷、上司の叱責、休日のチャット対応──蓄積されたストレスが、自分をどれほど壊しかけていたか。
そして、その言葉に、企業側の人事担当者も真剣に耳を傾けました。
結果として、該当上司に対しては、部下とのコミュニケーションの取り方についての提案や助言を行い、本人の意向も踏まえた上でチーム体制が調整されました。
事案の説明を受けた上司本人も事の重要性を認識し、相談者への謝罪の場も設けられました。
週末の連絡や業務修正の強要についても、緊急時を除いては原則控える方向でまとまり、休日はしっかりと休める適切な配慮が整えられていきました。
しかし、彼が最も驚いたのは、“制度”の変化ではありませんでした。
「人事の方が、“これまで頑張ってくださっていたのに、気づけなくて申し訳ありません”って言ってくれたんです。もう、それだけで、ずっと張ってた心の糸が緩んだ気がして……」
「正直、まだ完全に許せたわけじゃない。でも…、ちゃんと謝ってもらえたことで、気持ちがすっと落ち着いたんです。
ああ、もう“辞めてやろう”って思わなくていいんだなって」
もともと、彼が望んでいたのは「辞めること」ではありませんでした。
あの日、退職代行のページを開きながら彼が考えていたのは、「どうせ誰も何も変わらない。せめて、この不条理だけは世の中に知ってもらいたい」という、半ば諦めにも近い感情だったのです。
けれど、対話を通して状況が変わり、自分の気持ちが受け止められたことで、初めて前向きな未来に目を向けることができました。
企業側でも、この出来事を単なる「個別対応」で終わらせることはありませんでした。
社内全体には「指導とハラスメントの違い」を加えた新しいガイドラインが配布され、マネジメント層への研修にも組み込まれることに。
人事部からも「“何かあっても、最後に安心して声を出せる場所がある”と、全社員に思ってもらえる環境づくりを強化したい」との意見が挙がったそうです。
そして今、相談者だった男性社員は徐々に業務に復帰し、部署内での信頼も少しずつ回復しつつあると社外相談窓口で継続的にメンタル相談の電話で伝えてくれています。
「一度は“逃げ出すしかない”としか思えなかった。でも今は、“ここでやり直したい”と思えている。本当に良かったと思います。」
今回のケースは、「話して終わり」ではなく、「話すことから始める」対話が、どれだけの力を持つかを示した象徴的な出来事でした。
相談窓口は、単なる“緊急対応”のための場所ではありません。
そこで交わされたひとつひとつの声が、組織の“あり方”を問い直し、働く人と会社の信頼をつくっていく。
そしてその信頼は、企業ブランドや採用力といった「目に見える価値」にまでつながっていく。それが、今回私たちが得たもう一つの結論でした。
“対話が組織を変える”──それは理想論ではなく、現場から生まれるリアルな変化です。
エィチ・シーサービスでは
相談窓口の設計・運用だけでなく、「どうしたら声が届く仕組みにできるか?」まで一緒に考えます。
小さな声の積み重ねが、きっと大きな信頼をつくるから。気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。
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