〈前回のあらすじ〉
会議中に取締役から激しい叱責を受けた40代男性ベテラン社員。
複数人の前での吊し上げ発言により精神的な負荷を抱え、社外相談窓口にSOSを送りました。
相談内容は、エィチ・シーサービスを通じて人事部のAさんに届けられ、社内調査が開始されました。
- 「またミスか!」会議での吊し上げ──相談者のSOSに耳を傾けたとき【前編】
- それは「厳しい指導」なのか?──パワハラの境界線を見極める【中編】
- 信頼される職場づくりとは──“声が届く仕組み”が会社を変える【後編】
相談を受けたAさんは、相談者と面談を重ねて了承を得たうえで、関係者への個別ヒアリングに踏み切りました。
ヒアリングの際には、情報が社内で拡散しないようにと、口外しないよう注意喚起もしています。
Aさん:
「こうした話は、ひとたび噂になれば二次被害につながります。まずは事実を見極めるよう気を付けました。」
ヒアリングでは、特に「どのような言葉が、どの場面で使われたのか」といった客観的な事実の確認が重視されました。
コンサルタント:
「相談対応では、常に“どちらかの味方”に偏らないというスタンスを取ります。
相談者の逆恨みや誤解という可能性もゼロではありません。
だからこそ、感情ではなく事実に基づいた対応が重要なんです」
実際、取締役が感情的になった背景には、業務上の行き違いや過去の報告ミスへの不信感があったという声もありました。
ただしそれが、部下に対して人前で怒鳴ることの正当化にはなりません。
Aさん:
「どれだけ“指導のつもり”であっても、部下が委縮して声を失うような場面は、もはや“指導”とは言えません。
今回は“誰の目にも高圧的だった”という証言も複数ありました」
エィチ・シーサービスのコンサルタントも、企業が陥りがちな誤解についてこう指摘します。
コンサルタント:
「今回のようなケースで多く見られるのは、『昔ながらの厳しい指導の範囲』と捉えてしまうこと。
ですが、パワーハラスメントは“あいまいなもの”ではありません。
受け手の感じ方だけでなく、社会通念や業務の適正範囲に照らして判断されるべきものです」
つまり、立場の優位性を利用して、業務上必要な範囲を超えた叱責や人格否定があれば、
たとえ“教育的指導”を意図していたとしても、パワハラと判断される可能性があるのです。
とはいえ、すべての強めの言葉や厳しい指摘がハラスメントになるわけではありません。
企業は冷静かつ慎重に、「行為の客観性」と「社会通念に照らしての妥当性」を見極める必要があります。
今回のように、
・公の場で威圧的に叱責する
・人格を否定するような言葉を用いる
・フォローや説明が一切ない
といった要素が重なれば、それは組織としても見過ごせない事案となります。
相談者本人も、こう語っていました。
相談者:
「自分にも至らぬ点はあったと思います。でも、改善すべきところは怒鳴る前に伝えてほしかった。
17年間もこの会社で働いてきた時間は何だったのか……そう思ってしまって」
長年会社に貢献してきたベテラン社員にとって、たった一言の“指導”が、心を折る引き金になることもあります。
現場でのすれ違い、そして“感情をぶつける指導”が信頼関係を壊す、今回のケースはその象徴ともいえるものでした。
次回の【後編】では、
Aさんが実感した「外部相談窓口の役割」と「組織改善へのヒント」に迫ります。
エィチ・シーサービス株式会社では、
- ・社外相談窓口の導入支援・運用
- ・管理職向けのハラスメント防止研修
- ・社内風土の改善コンサルティング
- などを通じて、「社員の声が届く職場づくり」をサポートしています。
「これってパワハラ?」「社内の声が見えにくい…」そんなときは、私たちにご相談ください。
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